SCP-4000の話をしよう[SCP解説]
これからとあるSCPの話をします
このSCPは、結構読み解くのが難しく、私もすべてを理解している気はあまりしません。
そのうえ、裏の物語や隠しページなど、ウェブページの構造を利用した仕掛けも多く、webに慣れていないと触れることすら出来ない要素もあります。
でも、このSCPには形容し難い恐怖と熱量があります。それが伝わることを願って。
もちろん、私自身も伝えるために頑張って書きます。
名辞することができないSCP
文書の正式なルールに則れば、例のSCPオブジェクトに名前をつけることができない。
なぜかというと、
そのSCPは固有名詞を与えられることで発生する災害 がある。この災害が、このSCPのキモであり、恐ろしい点といえる。
以下、この収容プロトコルの触りのところだが、
特別収容プロトコル: 以下に述べる余剰次元の場所、ならびにそこに含まれる実体とランドマークは名辞災害(Eshuクラス)であり、そのためあらゆる名前、肩書、呼称で言及してはいけません。標準空間の外側に位置する森、ならびにその土着の実体に言及する際に用いることができるのは描写のみです。これらの描写には実体を描写するごとに変化がつけられなければなりません。描写は識別のために色分けすることが可能であり、1命名の多様性のために装飾的な言葉遣いを使っても構いません。
とある森と、その森の土着実体(native entities)に対して、”言及してはいけない”
例えば新種のりんごに「あかひかり」とか名付けて、[あれはあかひかりです]と広めた時点でアウト、というSCPである。
例えば私が、りんごを突然「ぴるるん」と呼び始めても、最初は何のことか分からないだろう。
でも何回も僕がりんごを指して、「ぴるるん」と呼んだり、「ぴるるん」と付箋を貼ったりすれば、
ああ、こいつはりんごをぴるるんと呼称しているんだな、とドン引きしながらも理解するだろう。
これが、”名辞”ということだ。この名辞自体が禁じられ、名辞によって罰を食らう空間がSCP-4000だ。
SCP-4000という空間そのもの、そしてその内部に名前のある存在は居ない。名前をつけようとした人間には災害がふりかかっている。
災害とは何なのかはおいおい。
本当に面倒なので、以下はSCP-4000と一通り呼称することにする、SCP世界ではだめだけど。
実際の文書では、数十回は登場する名詞に一切同じ名前がつけられていない。 ので、色で判別する必要が有る。同じ色の単語が同じ言葉を指している。
結局なんなのか。
SCP-4000は空間の呼称だ。とある儀式を実行すると現れる空間で、森林のように見える。
儀式は煙突のある暖炉で行い、正しく実行すれば煙突がレンガ造りの井戸につながる。 井戸から出た先が森林空間であり、泥の一本道が続いている。 この道は、進む以外のことをすると即座に連絡が途絶し、行方不明になる。 引き返す、道を外すなどはご法度だ。
この道は、強制的な一方通行であるため、幾何学的に重なっているであろう構成から逸脱している場合がある。
泥の道が急激にカーブしているため、どう考えてもさっき来た道と交差するはずの道筋であっても、道が交差していない場合があるということだ。
道を進んだ先には、再び井戸があり、その先は元の暖炉に戻る仕様?になっている。
森林には文書の用語で土着実体が登場する。要は森林には生き物がいる。
知的で、無礼な態度を取ることは許されない存在だ。文書には写真も載っている。
名前をつけるとどうなるのか。
文書の名辞災害、名前をつけて発生する災害には以下のようなものが挙げられている。
- 影響された名称に暴露した対象者らに発生する反復性群発頭痛。
- 暴露した対象者らに発生する、通常名称によって描写される環境または実体に関する幻視あるいは幻聴。少数の事例のサブセットにおいては幻味および幻臭も報告されている。
- 暴露した対象者らに発生する突然の心因性健忘。
- 暴露した対象者らに発生する、羽毛や花粉嚢といった非人間的な身体的特徴の発達。
- 名称が表記あるいは記録された非生物媒体に発達する生体要素。
- 手続4000-ハロウェイ(筆者注:儀式のこと)を用いることなしの、影響を受けた対象者らの突発的・非自発的な名のないものたちの原野への移動。
- 名称が使用された屋内空間への様々な植物群の出現。
- 名称が使用された地域への土着実体らの突発的な移動。
- 暴露した対象者らと土着実体らの生物学的融合。
- 名称が使用された建築空間と土着実体らの生物学的融合。
- 暴露した対象者らが示す、予想される有害な副作用なしの極度の鉄欠乏。
太字にしたところが、ケースとして挙げられているもの。
特筆すべき収容違反のページをいくつか見ていく。
命名対象: SCP-4000の中の道 違反日時: 1955年12月22日
概要: デスク・デスク(Desk Desk)は名もなき星々の下の茂み(編注:SCP-4000)における初の成功裡の探検ミッションを終え、ただちに隔離された。72時間異常な性質を示さなかったのち、デスク・デスクは彼の体験を記す許可を得た。研究者らが彼の進捗を確認するために戻った際、デスク・デスクは姿を消していた。後にデスク・デスクが執筆に用いていた鉛筆、紙、ハーヴェイ・マンスフィールド(harvey mansfield)から痕跡量の土とヒト組織が発見された。
この記述当たりで、このSCPのヤバさがわかる。
この文書の執筆者は既に認識災害に遭っている。それはこの文章のおかしさからもわかる。
普通、人名に、「デスク・デスク」とは名付けない。執筆に用いていた道具[鉛筆、紙、ハーヴェイ・マンスフィールド(harvey mansfield)]ってなんだ?
この、ハーヴェイ・マンスフィールド、というのは机(Desk)のことだ。そしてこの報告者がデスク・デスクと呼んでいる存在は人間である。
報告書の執筆者は、机のことをそう呼んでいる。そして、この収容違反。。。おそらく道に名前を記したであろう人間。。。のことをデスク・デスクと呼んでいる。
事象をまとめるとこうなる。
- ハーヴェイ・マンスフィールドが探検から帰還する
- 帰還したあとの記述の際に道に名前をつける(収容違反)
- 執筆に使っていた机とハーヴェイ・マンスフィールドの呼称が入れ替わり、
机がマンスフィールドという名前、人間がデスクという名前になる。
名辞災害であるため、探索者はもとからデスク・デスクという名前だったことになる。 - 探索者は道と生物的融合を果たし土とヒト組織になった。
名辞災害が周囲の人間に及び、定義自体の書き換えを起こすという点がこのSCPの災害の特徴とわかる。
命名対象: 土着実体 1958年8月19日
概要: 探検ミッションを完了したのち、フィールドエージェント・イーサン・メルシー(Mercy)・メルシー・メルシー・メルシーが特定の土着実体を表すのに同一の形容を複数回用いた。数分後、彼は強い吐き気を訴え、血と骨髄を嘔吐し始めた。 エージェント・メルシー・メルシー・メルシー・メルシーは数時間にわたり、如何にかして口から自身の骨の大半を吐きだしたと報告された。続く数日間、サイト-08中の職員が女性の笑い声の幻聴を経験した。
Mercyはマーシーとも呼ぶが、「慈悲深い」「思いやりのある」ということだ。
そして今回もやはりエージェントの名前がおかしい。
このエージェントは、名前がMercyになってしまった。「慈悲深さ」と名前を入れ替えたのだ。
彼女の名前は形容詞に奪われ、もうどこにも表現され得ないだろう。
同じ表現を使ってはならないという収容プロトコルに違反し、その場で彼女は、前述した
- 暴露した対象者らが示す、予想される有害な副作用なしの極度の鉄欠乏。
を引き起こした。つまり血と骨を吐き出して死亡した。
幻聴などは、彼女の存在を知っていた人間にも、影響があったことを示している。
例えば彼女の名前が元から書いてあった書類などを読むと、その名前はSCP-4000に吸収されているため、影響を受けると思われる。
1954年6月9日の名辞災害 対象:空間そのもの
[1340S] 語られぬ名の窪地(編注:SCP-4000)が発見され、フィールドエージェント・ギャレット・ブラッドレーにより臨時のタイプ-E5が与えられ、名辞的収容違反を引き起こす。
[1347S] エージェント・ブラッドレーが徐々に硬材の床に沈み始める。付近のエージェントらはその場から逃れる。
[1348S] 家屋を出た直後、タイプ-E指定に気付いていなかったティモシー・ウッズを除くすべてのエージェントが突然不動になる。
[1349S] 動けなくなったエージェントらは胴体が引き延ばされ、苦痛を声に出す。
[1351S] おおよそ手続4000-ハロウェイが実施された煙突と同じ高さに到達すると、エージェントらの伸展は停止する。彼らの顔面の開口部から煙が噴出する。ティモシー・ウッズが無線を通じてこれらの展開をサイト-08に報告する。ティモシー・ウッズが言葉に力のある世界(編注:SCP-4000)を描写するため繰り返し"█████"という表現を用いた際、二次的収容違反が発生する。
[1355S] ティモシー・ウッズが"木に[彼の]名前がある"と発言。サイト-08の職員がティモシー・ウッズに更なる情報を要求する。ティモシー・ウッズは無線を飲み込もうと試み、体内の負傷によりまもなく死亡する。
名辞災害の影響の箇所を太字にしました。
エージェント・ブラッドレーは、SCP-4000に名前をつけたことにより、家の床と融合。
他のメンバーも、エージェント・ブラッドレーの名辞を認識していたため、二次的被害を受け、体が煙突のサイズまで引き伸ばされ、煙から口を吐く。(おそらく煙突と混ざった)
木に[彼の]名前がある
「木に彼の名前がある」とはどういうことか。
一般的にされている推測は、このあとの「さらなる情報を要求されたウッズが無線機を飲み込み死亡」という描写から、ティモシーの実際の名前はウッズではなく、木(Woods)と名前が入れ替わりWoodsという名前になったというものだ。
- 木に奪われた彼本来の名前を、彼は森から認識している。
- オペレーターは森に関する情報を要求した
- オペレーターが発したであろう[森]の名前は、ティモシー自身の名前に既に入れ替わっている
- ティモシーは[森の調査]として無線機を飲み込んだ
というのが無線機を飲み込んだ説明として一般的なものだ。個人的には、もっと深い解釈が有りうるのではと思っている。
最終的にはオペレータには、
[1424S] 隔離されたサイト-08職員の両眼窩から、木の枝に類似した骨性突出物が現れる。両眼窩において完全な眼球脱臼を示しているにもかかわらず、職員は一切身体的不快感を報告しない。
ということで、目が樹になってしまったようだ。
土着実体の正体について
上記のような数回の恐ろしい実験(なぜ実験をする必要があったのだろうか)のあとに、
財団は安全に森を抜け、土着実体を交流するための複雑なルールブック(プロトコル)を作成した。
土着実体は会話する程度の知性を持ち、短気ではあるが礼儀を重んじる姿勢を常に崩さない存在として描かれている。
しかし、文書の端々に、土着実体の攻撃性が明らかになる箇所がある。
- 土着の実体が人間に対して本質的に有害であるように思われた稀な事例が記録されています。
ただでさえ ルールの逸脱=死 のえげつない空間で、最初から憎悪を持っている存在も居るようだ。
更に、最後の人間のジェイパーズ博士と、うさぎ頭の土着実体との礼儀正しい交流を描いた ”インタビューログ4000-0215”について、
末尾にとある恐ろしい記述がある。
後記:(前略)しかしながら綿密な分析の結果、探検用装備の上に彼(編注;ジェイパーズ博士)が脱ぎ捨てた毛皮には、遺伝子的異常は一切発見されませんでした。
博士が毛皮を着ているはずがない。
ここに最後に重大な入れ替わりと、それに潜む悪意が隠されている。
ウサギ紳士の悪意
ジェイパーズ博士は、土着実体との交流に非常に習熟している様子が、インタビューログ4000-0215 からは見て取れる。何行にも記録されているコミュニケーションで、話し相手のことを同じ呼び名で呼んでいることは一度もない。
にもかかわらず、実は、ジェイパーズ博士とウサギ紳士の間には入れ替わりが発生している。
ログの冒頭にはこんなやり取りがある。
"この辺りの土地では見ない顔だね、はじめまして。煙草を失礼するよ。ちょっと私の意見を広めにね。君の名前はどうだね?"
ジェイパーズ博士: どうと……? すみません、それはお教えできません。
ジェイパーズ博士が頭を下げる。
"君は頭が弱いのかね? 私はただ君の名前はどんな調子だと訊ねているに過ぎない。私の名前は最近ラズベリーの香がしてきたように思う — あるいは、おそらく金魚草か。近頃は区別も難しいが、努力はするものだ。"
ジェイパーズ博士: あぁ、申し訳ありませんでした。私の名前は近頃ずいぶんと酸い味がするようです。
お互いに名乗ることは出来ないが、名前の印象を述べている。確かにジェイパーズという名前はすっぱそうだが、注釈をよく読むと
- 後ほどジェイパーズ博士はSEP-2.03に違反したかどで譴責されました。
とある。SEPー2.03は
…2.03 虚偽であると自覚している発言をしてはならない。
である。その場しのぎで酸っぱいと言ってしまったらしい。
ジェイパーズの酸味は置いておきたいところだが、ログは
"待て! 何をした? 私には分からな…… 私の名前はどうなったんだ? 出来な……" ジェイパーズ博士は素早く家を退出する。彼が去っていく間、彼の以前の友はすすり泣いて両手を見る。 ジェイパーズ博士: ふむ。たしかにかなり酸いな。
で終わっている。
ジェイパーズ博士が、「ふむ。たしかにかなり酸いな。」と発言するだろうか。
ここで酸っぱさを実感しているのは、ジェイパーズ博士という名前(とそれに伴うアイデンティティ)もろとも奪ったウサギ紳士だ。
後記:(前略)しかしながら綿密な分析の結果、探検用装備の上に彼(編注;ジェイパーズ博士)が脱ぎ捨てた毛皮には、遺伝子的異常は一切発見されませんでした。
ジェイパーズ博士と名乗る(入れ替わりによって名乗る結果になった)ウサギ紳士が毛皮を着ているのはとうぜんのことだ。
名辞による攻撃
ウサギ紳士とジェイパーズ博士の非常に理知的で紳士的なコミュニケーションの中には、実は、SCP-4000の性質を利用した、恐ろしい攻撃が含まれている。
遭遇3のログにはこうある。
"そうだろうと思っていたよ!(中略)間違いなく君には興味のない話だろう、学者の友よ。" ジェイパーズ博士: それどころか、もっとこうした話をお聞かせ願いたいものです。あなたと仲間の方々の生活に大変興味があります。 "分かっているとも、学者の友よ。" 強い一陣のそよ風が家の中を通り抜ける。30秒ほど両者喋らず。そこに住まうウサギ人間はうめき、痛みに苦しむかのように頭に片手をやる。ジェイパーズ博士がティーポットに片手を置く。
おわかりいただけただろうか。
ウサギ紳士がジェイパーズ博士のことを[学者の友]と二度呼んでいる。
その瞬間におかしなことが起きている。
表に書いてみるとこういうことだ。
入れ替わり前
名前 | ジェイパーズ博士 | ウサギ紳士 |
---|---|---|
名前のイメージ | 酸っぱい(嘘) | ラベンダーっぽいらしい |
見た目 | 人間 | ウサギの皮をかぶった人型 |
属性 | 財団職員 | 土着実体 |
自己認識 | 自分をジェイパーズ博士と思っている | 自分を土着実体と思っている |
周囲の認識 | ジェイパーズ博士 | ウサギ紳士 |
入れ替わりあと
名前 | ウサギ紳士(仮名) | ジェイパーズ博士 |
---|---|---|
名前のイメージ | ラベンダーっぽいらしい | 酸っぱい(嘘) |
見た目 | 人間 | ウサギの皮をかぶった人型 |
属性 | 財団職員 | 土着実体 |
自己認識 | 自分をジェイパーズ博士と思っている | 自分を土着実体と思っている |
周囲の認識 | ウサギ紳士(仮名) | ジェイパーズ博士 |
名前と、名前に伴う現実改変が起きているが、
本人のアイデンティティというか、自己認識は変わっていないのだ。
これは攻撃なのか
この調査から帰ってきたのは、ジェイパーズ博士と名乗るウサギ皮の人間なのだが、名前はジェイパーズ博士になっているので、みんなジェイパーズ博士と思って受け入れてしまった。
毛皮を脱ぎ捨ててもそれに気づいていない。
彼の行方はわからなくなった。のか?
毛皮を脱ぎ捨てるってどういうこと?
このウサギ紳士は何を目的として、ジェイパーズ博士に成り代わったのだろうか。
いくつかのTaleと提言が、鍵になっている。
http://ja.scp-wiki.net/taboo/offset/1
http://ja.scp-wiki.net/scp-001-o5
SCP-4000はコンテストの優勝作品だが、テーマは「歴史」となっている。
上記のSCPには、過去に財団が所持していた工場と、そこを襲撃した存在との戦争が描かれている。
今の私が書くにはこれが限界
というよりも、もっと骨太な記事が何本もあって、
私も読むだけで精一杯。。。
翻訳やニュアンスの突き詰めをもっとやりたいので、解説は個々らへんにさせていただきたい。すみません。。。
いくつかの紹介記事
この駄文を呼んでSCP-4000に興味を持っていただいた慈悲深い読者の方々のために、
私も読むだけで精一杯だったSCP-4000の解説をいくつか貼らせて下さい。
[新版考察]SCP-4000の法則について - Privatter -
特に1番目の記事は骨太も骨太、数万字の文字数があります。
まだ私のSCP歴が浅いということもありますが、
何名もの財団職員が文書から事象を解き明かそうと、深海までダイブして、深く、網羅性の高い生地を投稿されています。
あまりにも奥深いSCPの世界、まだまだこれからです。
つかれた
一発目に4000持ってくるのは疲れた…
というよりも、書きかけの記事が何日も置いてあるのは精神衛生上よくない。
とりあえずもうちょっと見てもらえる、見やすい、書きやすい記事、、、ということで
次回は吊られた王の悲劇当たりにしてみようと思います。